紐切丸と葦人


葦人は襲いかかる出飛流を、紐切丸で斬り続けました。

さすが国一番のもののふ葦人、3日と3晩ひとときも休まず斬り続けました。

数千いた出飛流も、斬られ斬られてその数は百ほどに減っています。

魔物は葦人と出飛流らの戦いを上空でクルクル回りながら高みの見物しておりましたが、4日目の夜になろうかというころ、地上に降りてきました。

「人のもののふよ、その刀でよくぞ斬りに斬ったものだ、よし、わし自らが相手をしてやろう」

葦人は、三日三晩斬るつづけ目も見えなくなるほど疲労しておりましたが、魔物が地に降り立ったのを見るや、これ機会なりとこれでもかと大きく飛び上がり空中で紐切丸を最上段に構え、魔物を上空よりまっぷたつにしようと振りかざしました。

紐切丸が魔物をまっぷたつにするかのようにみえたその時、魔物の紅い目から炎のような真っ赤な光が放たれました。

赤い光を浴びた葦人は、空中で紐切丸を振りかざしたままの姿で炭となりました。

そのまま地上に落っこちると、粉々に砕け散りました、あっという間のできごとでした。

「わはははは、わははははは」

魔物は恐ろしく大きな声で笑い続けました。

「もののふといえど人じゃな、もののふといえど人じゃな」

魔物は笑いながらクルクルと回りながら踊り始めました、それを見て残った出飛流らも一緒になって笑い始めました。

砕け散った葦人の破片のそばに紐切丸がころんと転がっています。

その恐ろしい尊美山の戦いの一部始終を隣山からじっと見ているものがいました。

隣の山の主、鷹の大鷹三郎です。
大鷹三郎は目が良いので、隣山の一番高いてっぺんすぎのてっぺんから、じいっと戦いの一部始終を見ていました。


魔物と出飛流が踊りながら洞窟に帰っていくのを見届けた後、大鷹三郎はすうっと静かに翔びたち、紐切丸と元は葦人だった炭を一つ掴むと、朝廷の方へ飛んでゆきました。

「三巣山の大鷹三郎と申す、もののふ葦人様の亡骸と紐切丸を届けに参った」

門の前に降り立ち、こうしゃべったところ門番は飛び上がるほど驚いて、上のもののところへ飛んでいきました。

門番が驚いたのは、鷹が喋ったことなのか、それとも大鷹三郎が2メートルを超す背をもつ巨大な鷹であることなのか、大鷹三郎にはどうでもよいことなのでした。

朝廷の前の面々で、鷹の大鷹三郎はこう言いました。

「葦人さまほどのもののふが、この紐切丸をもってもあの魔物を斬ることはできませんでした」

「わたしは百年と三年生きておりますが、あのような魔物を見たのは初めてでございます、とてもこの世のものとは思えませぬ」

大鷹三郎は、悲しそうな顔をして、係りの者に紐切丸を渡すと会釈を一回したあと大空へ舞い上がり、そのまま見えなくなりました。

朝廷は魔物にたいそう怯え、心配のあまり体の調子の悪くなるものも出始めました。