魔物と緑海の戦い

真言を唱えつつづける緑海の前に、黒いつむじ風の形をした魔物が現れました。

緑海の頭上をグルグル回っています。

「お前だな、わしの名前を呼んだのは?」

「そのとおり、お前を呼んだのは、わたしだ。お前はこの国のものでも、いや、この世界のものではない」

「いますぐ、もといた世界へと、帰るのだ」

緑海は魔物をじっと見つめながら、魔物にそう命じました。

「わはははは、わしに帰れと命じるのか?この世では、わしは誰の命令も受けぬ。お前にはわかるだろう、わしの力の大きさが。」

「この世では、誰もわしの力にかなうものなどいないのだ。この世界はわしが貰い受けるのだ、邪魔するものは命を失うぞ」

「わはははは」

緑海は目を閉じて、別の真言を唱え始めました。魔物を捕獲するための真言です。

「ほほほう、この世でその真言をしっておる物がいるとはな」

魔物は、少し驚きました。

「どれ、わしの力を少し見せてやろう」

そういうと、魔物は口から黒いヘビに似た形の風を、ぶうううと吹き出しました。

風は緑海に向かって一直線に伸びていき、その体じゅうにまとわりつきました。

黒い風にまとわりつかれた力回の体や衣服が、黒い風に当たったところからどんどん腐ってゆきます。

凛とした僧侶の着物も真っ黒にすすけ、ボロボロとほつれ始めます。

緑海の頬や、手の甲もささくれだち、あっという間に腐りはじめてゆきます。

「わはははは、どうだわしの力は」

身体が腐れ、ただれていく緑海はそれでも立ったまま真言を唱え続けます。

「身体の皮がくさろうとも、魂とこの肉体の皮の下は真言の力によってびくともしていない」

「お前の黒い力など、その程度のものなのだ。尊きこの真言の力にお前は屈し消滅するのだ」

緑海はボロボロになりながら、真言を唱えながら叫びました。

これには、魔物も驚きました。

緑海のいうとおり、表面はボロボロですが皮一枚のその下から溢れ出る真言の力は無限の輝きを放ち、魔物の黒い力をじりじりと失わせていくのを感じたからです。

緑海が死なずにこのまま真言を唱え続けたら、魔物は自分の黒い力がなくなってしまうだろうと思いました。

それは魔物にとって驚くべきことでした、人間があの世の魔物を倒す力をもっているということですから。

そういう力がある人間がいることを魔物は知らなかったのです。

「ふむふむ、どうやらお前の力は本物のようだな」

「それでは、これはどうだ?」

魔物は黒いつむじ風から、碧い稲妻に姿を変えました。

そして光ったとおもうと、一瞬の早さで緑海の左の鼻の穴から緑海の体の中に入っていったのです。

緑海は電気に打たれたように、飛び上がるとバタリとその場に倒れました。