緑海、疑いなく

緑海の体の中に入った魔物は、それみたことかと緑海を笑います。

「うほほほほ、わしはお前の体の中におる、さて、どうしたものかな」

「うぬぬぬ」

緑海は全身の力を振りしぼりました。そして立ちがりました。

「ほう立ち上がったかな、これはどうかな」
魔物はそういいながら、緑海の体内で少し暴れました。

ぶうふううう、という息とともに、緑海の鼻から大量の鼻血が飛び出て緑海の服は真っ赤になりました、魔物はそれを感じてとてもごきげんそうです。

「さすがのお前とて、こうなっては手も足も出るまい」 そう言って笑っています。

しかし、緑海の気持ちは違いました。緑海はこうなることを待っていたのです。
魔物はきっと我が身を乗っ取るにちがいない、そう考えていたのです。

「わたしの期待通りだ、そしてわたしは疑いなく実行する」

そういうと、緑海は高台から身を投げ用意してあった魔物封印の壺の中へと自身を投じたのです。
壺の中におっこちた緑海の体はめちゃくちゃになり、緑海は即死しました。
緑海は自らの死をもって魔物を封印するべく準備したのでした。

高台の周りを囲んでいた僧侶たちが一斉にかけより、緑海から言われていたとおり即座に壺にフタをし封印の札を貼り、真言を唱え始めました。

魔物は死んでいませんでした。しかし、緑海が用意していた壺とお札の霊力は間違いのないもので、魔物は壺の中から出ることはできません。

3日3晩、壺を囲んだ僧侶千人が真言を唱え続けます、雨が降ろうと、朝だろうが夜だろうが唱え続けます。

緑海の命を引き換えにした封印の術で魔物は壺に閉じ込められました。魔物が封印されると、出飛流たちもすべて息絶えました。

緑海を祀る社が建てられました。
魔物を封印している壺はその周りを溶けた鋼で囲い込み、二度と蓋が開かぬように巨大な鉄の塊となってその社の地下に埋められました。

あやかしが消えた都には人の世の平和が戻りました。

魔物が何故この世に出てきたかというようなことは、いろいろと考えられましたがやがてそれを研究するものはいなくなりました。
どんなに研究しても答えはわかりませんでした。
人の世には、魔物がいなくなることが大切であり、なぜ現れたのか、緑海の封印の術はどういうものだったのかは関心ごとではなかったのです。

平和な世がずっとずっと続きました。

緑海の社はずっと大切に祀られていたのですが、時代が経つうち、この世に魔物が現れたこと、緑海が封印したことなど、おとぎ話のように絵空事のように人々は思うようになりました。

「この世を作った何か」は、時間に忘却させる力を与えました。
どんなに恐ろしい出来事があっても時間がゆっくりとゆっくりとその記憶を溶かします、おかげでいつまでも悲しまずに済むというわけです。
まるで氷が溶けて水になり、水が蒸発して水蒸気になり大気に溶け込んでゆくように。

千年以上の時が流れました。